【2022年「IBBYオナーリスト」日本の作品決定】

*文学作品*
花形みつる『徳治郎とボク』理論社
*イラストレーション作品*
田島征三『つかまえた』偕成社
*翻訳作品*
長野徹『ケンタウロスのポロス』ピウミーニ原作、岩波書店

JBBYは、9月8日に国内選考会を行い、2022年の「IBBYオナーリスト(IBBY Honour List 2022)」に推薦する日本の作品を決定しました。

 「IBBYオナーリスト」は、子どもの本を通しての国際理解を提唱するIBBY(国際児童図書評議会)が、1956年から隔年で発行している、世界的に権威のある児童書リストです。文学作品・イラストレーション作品・翻訳作品の3部門があり、IBBYに加盟する国と地域が、2年に一度、ほかの国でも読んでほしいすぐれた子どもの本を選び推薦します。IBBY日本支部であるJBBYも、毎回選考会を実施して、日本を代表する作品を推薦しています。

 このリストは、世界中の翻訳出版関係者にとって、すぐれた児童書発掘のデータベースになります。また、ほかの国の子どもたちが成長の過程でどんな本を読んでいるかという情報は、国際理解・多文化理解を進めるうえで大変興味深い資料にもなります。

 なお、JBBYは、IBBYオナーリストに選ばれた作家・画家・翻訳家・各出版社に「JBBY賞」をお贈りしています。

* IBBYオナーリストとは
* 日本の歴代作品と受賞者

2022年「IBBYオナーリスト」日本の作品

●文学作品部門
『徳治郎とボク』花形みつる 作、理論社、2019

徳治郎というのは、語り手でもある「ボク」の祖父の名前。周囲には気難しいが、ぼくには優しく、自然の素晴らしさを教えてくれ、子どもの頃の話もしてくれる。大好きな祖父が心筋梗塞で倒れ、次第に死に向かっていくことに寄り添いながら、小学6年生のボクの目を通して、頑固者の祖父の人生が浮かび上がってくる。それはまた、祖父が生きた時代と当時の暮らしも写し出し、ボクの現在につながる家族の歴史とも重なる。祖父の介護をめぐる家族のやりとり、秘められた祖父の戦争体験などをからめながら、孫との交流のなかから祖父の生きざまが感傷を交えず克明に伝わってくる。臨終の病床でのふたりの最後の会話も淡々としていて感動を誘う。

【花形みつる】1953年、神奈川県に生まれる。1988年「逃げろ!ウルトラマン」が、小説誌『文藝』の新人賞候補になったことがきっかけとなり、1991年、『ゴジラの出そうな夕焼けだった』で作家デビュー。筆名は、1960年代に日本で大ヒットした野球漫画『巨人の星』から採っている。その後、エネルギッシュで生き生きとした子どもたちの姿をユーモラスに描いて高く評価され、日本児童文学者協会賞や野間児童文芸賞など、いくつもの文学賞を受賞。本作も産経児童出版文化賞大賞に輝く。ほかに、『サイテーなあいつ』(1999)『ぎりぎりトライアングル』(2001)『しばしとどめん、北斎羽衣』(2015)など。

●イラストレーション作品
『つかまえた』田島征三 作、偕成社、2020

「ぼく」はひとりで川へ行き、浅瀬にじっとしている1匹の大きな魚を見つける。そっと近づいたところで、足が滑って水中へ落ちてしまうが、必死に素手でつかまえにかかる。「ぬるぬる」「ぐりぐり」と、手の中で暴れる命の感触が伝わってくる。つかまえた魚が死にかけると、今度はその命を救おうと、少年は夢中で川へと走る。画家は、この生命の物語を表現するために、つやのあるミラーコート紙に泥絵具を用いた。荒々しい筆致で、かすれや余白のなかにも、水や空気や感情がほとばしるようだ。少年と魚の、強く激しく切なくもユーモラスな生命の交感が描かれる。80歳になった作者の自然のなかの原体験が鮮やかに伝わり、読者の体に生命力を呼び覚ます。2020年国際アンデルセン賞・画家賞ショートリストに選ばれた後に発表した渾身の1作。

【田島征三】1940年、大阪府生まれ。多摩美術大学でデザインを学ぶ。1960年代から第一線で活躍し続けている絵本作家。油絵から立体までアーティストとしての活動は幅広く、文筆家としての評価も高い。新潟県に「空間絵本」を展示する「鉢&田島征三 絵本と木の実の美術館」がある。代表作に、第2回ブラチスラバ世界絵本原画展で金のりんごを受賞した『ちからたろう』(1967)をはじめ、『ふきまんぶく』(1973)『とべバッタ』(1988)『ガオ』(2005)、2018年国際アンデルセン賞審査員によるVery Best Booksに選ばれた『ぼくのこえがきこえますか?』(2012)など。

●翻訳作品部門
『ケンタウロスのポロス』
長野徹 訳、ロベルト・ピウミーニ 作、岩波書店、2018

上半身が人間で下半身が馬の姿をしたケンタウロス族の若者ポロスは、けんか好きな仲間たちの恨みを買い、故郷を離れて旅に出る。ギリシャ神話の神々や英雄たちが登場する壮大な世界を舞台に、主人公がさまざまな出会いや試練を通して大きく成長して戻ってくる「行きて帰りし」物語。細かい章立てで先へ先へと進むスピード感、緊張感のあるきびきびした文体で語られる波乱万丈の冒険は、読み始めたらやめられない。ギリシャ神話の、時に荒々しい、自然豊かでダイナミックなイメージと、主人公ポロスの葛藤や恋心という繊細な内面の対比を、訳文は見事に描き出している。

【長野 徹】東京大学文学部卒業、同大学院修了。文学博士。イタリア政府給費留学生としてパドヴァ大学に留学。現在、東京大学大学院人文社会系研究科助教。イタリア文学研究者・翻訳家。特に19・20世紀の幻想文学、児童文学をテーマとしている。また、おとぎ話や民話にも関心を寄せ、最近では、19世紀末から現在に至るイタリア児童文学史を、個々の作家・作品を取り上げながら再検討している。訳書に、ピウミーニ『光草─ストラリスコ─』、ピッツォルノ『ポリッセーナの冒険』、ストラパローラ『愉しき夜 ヨーロッパ最古の昔話集』、ソリナス・ドンギ『ジュリエッタ荘の幽霊』など。