JBBY希望プロジェクト・学びの会報告(2022/8/7)

「非血縁の家族について考える ― 里親家庭で育つ子どもたち」
 講師:横堀昌子さん(青山学院大学コミュニティ人間科学部教授)

 今回は、施設や里親家庭で暮らす子どもたちと一緒に育ち、現在も行政や民間団体、ケアを離れた若者らと様々な支援活動をしている横堀昌子さんを講師にお迎えした。横堀さんは、児童養護施設職員だったご両親のもとに生まれた。ご両親は退職後の1982年、社会的養護が必要な子どもたちのための国レベル・自治体レベルのグループホームやファミリーホームの制度がなかった時代に、「横堀ホーム」を開設した方たちだ。場所は群馬県、横堀さんは当時中学生だった。

 横堀さんはまず、家族とは多様で、だれとだれを家族に入れるかは、その人なりの考えでいいのではないかと語り始めた。家族とは、親子とは何か? それが、両親が勤めていた施設で横堀さんが一緒に暮らした子どもたちの、根源的な問いかけだったという。

 一言で「里親」といっても、「養育里親」「専門里親」「親族里親」「養子縁組里親」がある。また里親制度と養子縁組制度を混同してもいけない。講演を通して、里親制度、社会的養護についての知識を得るいっぽうで、複雑な環境の中で育った子どもたちをどうやったら幸せにできるか、真剣に取り組みつづける人たちの姿が見えてきた。

 国連の子どもの権利条約や指針が日本にも影響を与えるなかで、改正児童福祉法が成立、社会的養護も少しずつ形が変わってきている。日本はこれまでずっと、生活グループが大きな施設が主流だったけれど、それをどうやって小規模にし、養育の質や機能を高めるかが今後も課題だという。社会的養護を必要とする児童数は2021年3月現在で42,000人。その中で里親とファミリーホームに委託される子どもの数は、全体の22.8%にすぎず、国は「家庭養育」への委託を政策として急ピッチで進めているそうだ。

 だれもが「自分はここにいていいんだ」と感じて、初めて一歩前へ踏み出せる。社会的養護が必要な子どもたちのために、里親はそんな場所を作り、コミュニケーションを通して子どもたちの心を開き、その回復と成長を支えていく。プライバシーに配慮しながら、横堀さんは里親委託された子どもたちの小さな声や本音を、たくさん伝えてくださった。国連・子どもの権利条約にもりこまれた人権思想にも触れ、子どもの声を聴くことから「子どもの権利を大事にすること」が始まると、横堀さんはいう。長年にわたって里親子や関係者を支えてきた横堀さんは、「すこやかに生き、育ちあっていけますように ~子どもも、おとなも、あなたも、私も」と、お話を締めくくった。

 その後、かつて横堀さんと同僚だったJBBY会長のさくまゆみこさんが「非血縁の家族を描く子どもの本」を紹介。「里子・養子を描く作品」を16作品、「児童養護施設が舞台の作品」を4作品、取りあげた。前者に海外の作品が、後者に日本の作品が多いのは、社会制度を映し出しているからだろうと説明された。現実を創作に生かすのは容易ではないこともわかったが、でもだからこそ、もっと書いて!と、作家たちを応援したくなった。講演が終わって半月以上だった今でも、里親や、里親家庭で育つ子どもたちについて、もっともっと知りたいと思う私がいる。横堀昌子さんの筋の通ったお話に、改めて感謝している。

報告:野坂悦子

横堀昌子(よこぼり・まさこ)

児童養護施設職員だった両親の元に生まれ、子どもたちとともに育つ。1982年に両親が設立したファミリー・グループホーム横堀ホームにて、多様な背景をもつ子どもや大人と暮らす。大学院修了後、児童養護施設東京育成園、横堀ホームで働き、青山学院着任。現在、青山学院大学コミュニティ人間科学部教授。専門は子ども家庭福祉。養子と里親を考える会理事、厚労省や自治体の各種委員、里親や支援専門職の研修・育成もしている。

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