JBBY希望プロジェクト・学びの会報告(2019/2/2)

「少年院・少年鑑別所における読書に関する取組について」

講師 日置将之 氏(公立図書館員)

 2018年度最後の学びの会は、公立図書館に勤務するかたわら、「矯正と図書館サービス連絡会」事務局長を務める日置将之さんを講師に迎えました。「矯正施設」とは刑務所、少年刑務所、拘置所、少年院、少年鑑別所及び婦人補導院の総称で、刑事施設(刑務所、少年刑務所)とそれ以外に分けられます。今回は少年院と少年鑑別所を取り上げていただきました。

 日置さんが所属する日本図書館研究会児童・YAサービス研究グループが2013年に行った第2回調査に基づき、ご自身の法務教官としての経験を交えながら、少年院や少年鑑別所における読書の取組について話をしていただきました。

1 少年院・少年鑑別所の読書環境について

 2013年の調査によれば、全国51カ所にある少年院の平均蔵書数は約5,600冊(最高約11万8,000冊、最低1,300冊)、全国52か所にある少年鑑別所の平均蔵書数は約2,700冊(最高8,000冊、最低約1,400冊)でした。年間の購入予算の平均は、少年院で平均約275,000円(最多90万円、最少4万円)、少年鑑別所は平均178,500円(最高100万円、最低5万円)と施設の規模によって幅があり、全ての少年院と9割以上の少年鑑別所が地元の篤志家や地域の企業等からの寄贈に頼っているそうです。図書の種類は、文芸書、学習用・資格取得用図書、教養書、実用書など様々で、マンガを所蔵している施設もあります。

 また、図書が置かれているのは、図書室、寮内のホール、廊下など。読書ができるのは居室かホールで、余暇の時間か自己計画時間といわれる読書、学習、テレビ視聴の時間帯です。

2 読書を活用した取組と図書館との連携について

 少年鑑別所は措置が未決であるため、矯正教育は行いませんが、少年院では読書指導が基本的な指導法に位置付けられ、①担任が課題図書を準備し、読書記録や感想文を書かせて面接を行う、②少人数で読書会を行う、③全員で課題図書を読み、テーマについて討論する読書集会、④年2回程度、少年全員に課題図書等の読書感想文を課し、各寮で数名の代表者を選び、全員の前で発表させる読書感想文発表会などが行われています。この発表会では、少年たちは1,500字程度の感想文を暗記して臨みますが、その頑張った姿を見た保護者や学校の先生に褒められることが自己肯定感の向上にもつながるといいます。

 そのほか、各少年院で行われる独自の取組には様々なものがあります。読書が苦手だったり、語彙が乏しかったり、通常の読書指導に困難を感じる少年に対して童話・絵本を素材とした読書指導を行っている事例、郷土の児童文学作家を題材に読書や合唱、演劇等を組み合わせたイベントを実施している事例、朝の読書を実施して雰囲気の安定を図っている事例、民間ボランティアが読書集会に参加する事例などです。

 年少者の場合、学校に通っていないために日本語能力に課題のあることが多く、日本語の学習から始めるとのことです。国語辞典や漢字ドリルで勉強させ、毎週漢字テストを行い、読書指導へとつなげていきます。

 このような少年院での取組に対して、公共図書館が提供しているサービスには、①団体貸出し、②移動図書館のサービスポイントに矯正施設を組み込み図書を提供、③図書の寄贈、④選書のための情報提供等、⑤ブックトークや読書会等への司書の参加や、保護者向けの講話などがあります。特に広島県立図書館では、少年院などと活発に連携を行っているとのことです。

3 読書が少年たちに与えた影響について

 続いて、法務教官としての経験に基づく日置さんの考えをお話しくださいました。日置さんは、それまで読書習慣がなく日本語も覚束なかった少年たちの多くが、少年院で読書習慣を身に着け、加えて漢字ドリルや作文、日記等の課題をこなす中、語彙が増え、表現力が豊かになっていく様子に少なからず驚かれたそうです。中には社会の仕組みについての本を読み、自分がいかに知らなかったかに気付き、社会への関心が芽生えた少年や、読書にもっと早く出合っていたら少年院に来ることもなかったかもしれないと、短絡的な思考で犯罪に及んだ自分を振り返り、少年院を出てからも読書を続けたいと語った少年もいたそうです。

 最後に、多数の事例を通して、読書の環境と媒介する大人の存在があれば、子どもたちは読書習慣を身に着け、人格形成、自己の客観化、代理経験によって知識や視野を広げることができ、自己表現力・感受性・想像力の涵養といった読書の効能は非行防止にも有効であること、そのためにも矯正施設の読書環境の更なる整備が求められると述べられました。会場からは多くの質問が寄せられ、活発な議論を経て会は終了しました。

 お話を伺い、少年犯罪の背景に、学校に行けない、又は行かせてもらえないような厳しい生育環境が透けて見え、問題の深刻さを真摯に受け止めると同時に、本や読書には子どもを変え得る可能性があることを改めて実感することにもなりました。JBBY希望プロジェクトでは、子どもの本を通して、困難な状況にある子どもたちに対して何ができるかを模索し続けています。今後、矯正施設への図書の寄贈等の可能性も視野に入れて、私たちは何をすべきか議論を深めていきたいと思います。

東京少年鑑別所見学(2019年1月16日)

 第4回学びの会に先立ち、実行委員が東京、氷川台にある東京少年鑑別所の見学に行きました。

 少年たちが実際に生活している寮は非公開ですが、会議室で少年鑑別所の説明を受けた後、管理棟や現在使用していない寮棟をご案内いただきました。

 見学は少年たちが移送されてくる入口から始まります。車に乗せられて東京少年鑑別所に到着すると、パトライトが設置されている二重のドアを通り抜けて建物内に入ります。まだ処分が決定していない子どもたちなので、プライバシーの保護には十分に留意され、周囲の住宅街から中が見えないように目隠しが設置されていますが、それは同時に街中であるのに周囲から隔絶されたような感じを与えるもので、私たちも緊張を感じないわけにはいきませんでした。建物内に入り、入退所室で入所手続きをする際は、本人確認を行った後、持参品、着用している服等は一旦回収され、鑑別所内で使用する生活用品を受け取り、規定の服に着替えて入寮します。

 調理室、運動場、レクリエーション棟を経て、現在は使用していない居室を拝見しました。集団室と個室がありますが、個室は3畳くらいのスペースにトイレと洗面台、布団とテレビが備えてある非常にこぢんまりとした簡素な部屋でした。飾り格子のはまった窓が庭に面してありましたが、窓から見えるのが冬枯れの景色だったためか、寂しい印象を受けました。その他の空き居室では、東京少年鑑別所での生活を紹介する展示品や、見学者の緊張を和らげる季節の飾りが置かれており、職員の皆さんの心遣いを感じました。

 読書の取り組みについてもうかがいました。本の所蔵冊数は約5,000冊で、ジャンルは小説、実用書、学習参考書、パズル、ガイドブック、マンガのほか、収容者にはブラジル、中国等、外国にルーツのある少年もあることから、外国語で書かれた絵本も置いているそうです。言語数は、27か国語に及び、図書館並みの幅広さに驚かされました。図書はDVDとともに、概ね寄付によって賄っているとのことですが、不正物品の受領を防ぐための確認が必要なため、新品や図書券の方が喜ばれるそうです。また、少年鑑別所は処遇未決の少年を収容するため、ボランティア等の受入れについても容易ではありませんが、少年院は処遇既決であるため、逆にやり易いということでした。

 鑑別所内の見学を終え、ふと上を見上げると塀の上部には有刺鉄線が幾重にも巻かれてあり、社会からの隔絶感を一層際立たせていました。この塀の中に入ったときの少年たちの心情はどのようなものなのでしょうか。孤独か、寂しさか、あるいは後悔でしょうか? 処遇の決まらない宙ぶらりんな4週間の中で、もし心を動かす本に出合えたら、その少年の未来はどう変わり得るのだろうか、子どもの読書に関わる大人たちや図書館は子どもたちに対して何ができるのか、深く考えさせられました。

(報告:中島尚子)

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