JBBY希望プロジェクト・学びの会報告(2019/7/15)

「一時保護される子どもたち」

講師 茂木健司氏(江戸川区子ども家庭部一時保護所開設準備担当課 課長)

一時保護所とはどんな施設なのか

(1)歴史

 一時保護所の歴史は古く、昭和22年の児童福祉法制定以前にさかのぼる、第二次大戦直後全国の都市部にあふれる孤児や浮浪児の収容場所としてスタートした。「刈り込み」によって保護した子どもを鑑別し、児童福祉施設等に送り込む業務を担った。当初収容される少年たちの非行の大半は親のいない児童の「食べるため」の非行だった。

 一時保護所はその後児童相談所の組織に組み込まれ、以下の経緯の中で児童福祉から、家庭を見守る体制も含めた〈こども家庭福祉〉へと役割を拡大していった。

 1994年 児童権利条約批准
 1997年 社会福祉基礎構造改革
 2001年 児童虐待防止法施行
 2004年 児童福祉法改正 第一義的には市区町村が第一の担当部署になる
 2011年 社会的養護の課題と将来像
 2015年 子ども子育て新支援制度 認定こども園などの設置

(2)児童相談所における一時保護所の機能

 現在は2016年児童福祉法改正(2017/4/1施行)により、児相における虐待の発生予防、迅速的な対応、養育支援、自立支援の強化、市町村の役割のさらなる強化が定められ東京の特別区の児相設置が認められた。

 法改正に伴い東京都では23区中22区で児相を新設する予定。江戸川、世田谷、荒川各区は先行3区として2020年4月~7月に児相がオープンする。2021年度には港区、中野区、新宿区など数か所がオープンする見通し。これら新設される児相の一時保護所は個室中心(学齢児10㎡程度の個室)など、従前よりは手厚い職員体制となる見通しである。

 児相は本人や親からの相談に応じることと第三者の通告を受付ける。その後子どもの家庭状況、家族構成、収入、親の職業などの社会診断を行う。さらに心理学的な面および医学的な面の子どもの発達の状況をみる。(心理診断、医学診断)

 一時保護所では児相の一部門として、子どもの行動をよく観察してその背景を探りながら行動の特徴の原因を見つけていく行動診断をおこなう。

 上記4つの診断を合わせて総合診断といい、総合診断によって子どもと家庭に何が起き子どもが困難な状態にあるのかを把握しその子どもや家庭にどのような支援、援助が必要かをみつけていく。それが〈子ども家庭支援〉となる。その一つの方法として児童養護施設等の施設に入所、里親に委託、児童福祉司といわれるソーシャルワーカーが在宅のまま支援するなどの対応をする。支援するときには地域のいろいろな福祉サービスや様々な支援プログラムを活用し良い子育てができるよう支援していく。

 一時保護所は児童相談所全体の一部分を担っている。一時保護所だけでみていくとそこは子どもたちの緊急的なシェルターとして機能する場となっている。

 例えば3歳くらいで迷子になって町を歩いていて親が見つからなければ保護する。夫婦と子ども二人が車の中で生活をしている、手持ち金も2千円しかないといったひっ迫した状況の子どもを緊急に保護する。

 保護した子どもを行動観察し、帰宅できる子であれば帰すが、帰せない場合は他の養育者を探す間一時保護所に待機することになる。保護期間の全国平均は28~30日だが、中には1年など長期に及ぶこともある。子どもたちは必要に応じ包括的支援の場として施設入所という措置にいたる。

 一時保護された子どもたちのうち60%は自宅に帰宅し、19%の子どもは施設、里親のもとに行く。東京は他の児相に送致する案件が多い。(家出少年を居住地の児相に送り届ける)

 年齢は幼児と高校生、小学生、中学生それぞれ3分の1。
 子どもたちの8割が虐待のある環境で生活してきている。

一時保護所の環境について

(1)予算措置の低さが招くハード面の劣化

 全国の一時保護所は現在137か所で、その数は昭和25年(120か所)からほとんど増加していない。建物の老朽化、破損しても修繕費が無い状態。個室整備が未整備であり一人当たりの畳2枚(3.3㎡)という狭いスペース。7年前に最低基準が畳3枚4.95㎡になったが、依然として畳2枚の施設も多い。またプライベートと開放空間が無配慮な配置になっているなど、ハード面の改善は急務である。

(2)施設崩壊がもたらすもの

 一時保護所は様々な年齢の子どもたちが入り混じって一日中共に過ごしており、年少児や自己主張できない子の人権が侵害されやすい。多くの子は強い子に合わせるしかない。その結果、子どもにとって二度と来たくない場所となる。

 茂木先生の経験した施設崩壊の現場
  無断外出年50件(100人以上)
  いじめ暴力の常態化 職員との対立
  多くの子は自己主張せず強い子に合わせ施設全体が荒れ放題になっていく
  子どもの逃げ場がなくなる

(3)子どもにとって突然に保護所の生活がスタート。理不尽な思い!

 子どもたちは、例えば小2の子が青タンを作って登校してきた。子どもに理由を聞いたところ父親に殴られたと答えたので、学校から児相に通告した場合、多くの場合その日のうちに子どもは児相に保護される。子どもにとっては何の心の準備もないままにその日から全く異なる暮しが始まる。子どもはノーとは言えない。ノーと言っても説得される。

 全てから突然離されるというのは非常に辛い。しかも今後どうなるのかわからない不安もある。突然家族、学校、地域から離され、子どもの心に理不尽さが残る。中程度の性被害に遭った子どもだと、悪いのは親なのだから自分が出ていくのではなく、親が刑務所に行けばいいのに!と、ほぼ100%の子どもが理不尽さを訴える。このようにして知らない人との共同生活が始まる。自由に外出もできない。今後の見通しがない。その大変さに私たちはいつも敏感でいなければならない。職員は意外と鈍感である。

 裏切り感を抱く子もいる。兄弟がいる子どもは自分さえちゃんとしていれば殴られなかった、殴られるのは当たり前という、躾の暴力容認の価値観のなか、家族を裏切ってしまったという思いに囚われている子どももいる。

 また施設崩壊の保護所だと、暴力やいじめが常態化していて、ここよりは家にいたほうがましな場になってしまうこともある。家だと学校に行っている間は虐待されない。そういう子どもにとって保護所は二度と訪れたくない場所になってしまう。

 ただし家庭で著しく虐待されてきた子どもは、感情が麻痺しているため喜怒哀楽の表現が乏しくつらさを感じることさえできない。

(4)各自治体の施設の格差

 例えば2017年度東京都で様々な施設(警察、乳児院、一時保護所、児童養護施設など)で一時保護した子どもは約2800人だが、大阪府と大阪市合計は約4300人である。人口比率からみて東京都の施設の不足が浮き彫りになる数字である。ちなみに鳥取県人口は約59万人だが一時保護収容数は上位15位。相談活動が活発で保護した子どもの行動観察をしっかりしている。一方都市部は保護せざるを得ない子どもの数に常に追われ続けている。東京都は常に120%の収容率。一時保護は児童養護施設と一時保護所が行うが児相の一時保護所はその70%ほどを担っている。

 一時保護所の定員も4人から70人。多いところだとひと月に127人保護されている。
現在一時保護所に保護されているのは3000人弱(児童養護施設は3万人)。

 個室中心、シャワートイレ、TV、完全男女分離、肌着支給、歯磨きペースト個人に一本、筆記用具支給、適宜の外出の対応などは最低限の子どもの生活の権利として補償すべきだが、不十分な予算措置によって歯磨き、衣類の使いまわし、和式トイレのみ、市販ワークブックのコピー、筆記用具と紙の回収(子ども同士の情報交換防止のため)、職員からの衣類寄付などで賄う施設も存在するのが現状である。

(5)学習環境の悪さ

 勉強は自習形式のところが多く、小学生だと百マス計算や漢字ドリルといったワークなどが与えられるだけのところもある。学習時間は午前中のみで、長期になると学校生活に著しく遅れをとってしまう。

(6)専門職制度の未確立

 一時保護所の職員は幼児対象の保育士と、未経験の児童指導員で構成されている場合が多く、また夜勤などの時間外は学生アルバイトや非正規職員に依存している。またSV(スーパービジョン=適正な業務ができているかをチェックしながら職員教育をすること、する者をスーパーバイザーという)を担う上司にも他部署からまわされた未経験者が多くSV制度が機能していない。職員の研修制度も未確立である。

保護された子どもの生活支援で重要なこと

(1)一時保護所で子どもたちが満足し楽しみにしていること

 アンケートによると、楽しみにしていることは食事(80%)自由時間(83%)スポーツ活動(80%)お風呂(78%)他の児童と一緒に過ごす(78%)職員と一緒に生活(72%)児童心理士、福祉士との面接(68%)一人で過ごす時間(60%)両親との面接(50%)など。

 満足していることは食事のおいしさ(83%)自由時間の多さ(78%)お風呂の回数(78%)スポーツ活動の回数(75%)職員と一緒に生活すること(72%)他の児童と一緒に過ごす(72%)児童心理士、福祉士との面接(60%)だった。

 子どもたちの暮らしの中で食事や入浴の楽しみと満足度が高い。食事は大切である。給食業者の選定は、価格だけの一般競争入札ではなく美味しいものを食べさせようとする業者を選ぶべきである。

 また職員や児童心理司、児童福祉司との面談は彼らにとって重要である。職員とのかかわりを大切にしていることがうかがえる。逆に家族の面会は半々で複雑な心境を表している。 

 専門家による子どもたちの行動診断、心理診断、社会診断をとおして措置先に求められるものは、よりよい対人関係に尽きる。非暴力、温かい言葉、守られ体験などにより、自己肯定感を向上させ、正しい欲求表現ができる、指導を受け入れる、適切な対人距離をとる、暴力的傾向を軽減するといった対応が求められる。

 一時保護所の子どもの支援には、受容の原則と承認欲求充足が不可欠である。

(2)子どもは傷ついて保護所に来ている

 緊張と不安の絶えない環境から保護所にやってくる子どもたちは、ネグレクト(衣食住の不足)、DV(守ってくれる人が攻撃されるのを目の当たりにする傷つき、物理的・心理的・性的被害)や、発達不相応のコミュニケーション(ネット、携帯、依存性物質、性被害など)、集団からの攻撃、無視、排除に遭うなど、様々な面で傷つき保護所にやって来る。そして保護されたことがもたらす心理的な影響も状況によって様々である。

以下事例を紹介するが、プライバシー保護の観点から一部改変して紹介します。

  • 事例1 5歳女児。祖母が突然相談に来る。問題行動は冷蔵庫のものを盗む、うんちをもてあそぶ、なんでもいやいやをされて面倒見切れない。施設に入れるのはかわいそう。虐待の疑いがあり翌日一時保護。母子家庭だったが、母親が徐々に祖母にまかせっきりとなり、その後しばらくすると問題行動が始まる。同時期に体位の発育が停滞してしまう。入所時、身長体重ともに標準値を下回っていたが一時保護開始により一か月後回復する。祖母が食事を与えていたにも関わらず「愛情遮断症候群」による発育不全と異常行動が散見されていた。
  • 事例2 小5女児毎日のように友達の家に遊びに来る。そのうち食事もそこで食べるようになり土日も朝8時ころから遊びにくる。友達の親から警察に通報。保護所で生活を始める。ケア・ワーカーによる行動診断は対人トラブルが中核と言える状況。ほかの子に意地悪。職員に暴言。涙。被害的意識。注目獲得行動。攻撃性高い。問題解決に暴力。知的発達は標準の70%水準。自己肯定感低い。母親の面接により彼女が望まなかった子どもで愛情をもてないこと。気にくわないと虐待もしていた。児童心理施設入所により育てなおしと、母子の適切関係を支援する方針となった。
  • 事例3 家庭内暴力で母親の希望で保護した小1女児。暴れる、不登校。警察が児相に連れてくる。保護されたとき、女児は身体を洗えておらず垢だらけ、髪の毛ももつれて汚れていた。母親には触らせない。発達に偏りがあった。半年後施設入所し、一年ほど施設で暮らし、母子の教育プログラムを経て母のもとに戻る。
  • 事例4 中3男児。暴れん坊の金髪。学校は髪の毛を染めるよう指導し事実上の出席停止。12月にひと月の予定で保護。保護中も気に入らないことがあると興奮して物干し竿を振り回すなどの行動があった。正月に一時帰宅したが、1月4日に保護所に戻り1月下旬までいる。卒業後のワーカーの家庭訪問で彼は保護所で職員がきちんと向き合ってくれたことに感謝した。保護所の大人は信頼できると言っていた。

 上記事例からも分かることは、心理学者マーズローの述べる生理的欲求と安全欲求をきちんと満たしたうえで、やらなければいけないところがあるというのが私の基本的な考え方で、一時保護所の支援の原則は名前を付けて〈クー ネル フーロの原則〉と。

 これらを満たしたらあとは〈あそび〉。
 これを原則にしてきちんとやると半分以上の子どもは落ち着く。
 しかし半分くらいの子はそれだけでは不十分。彼らには受け入れてあげてきちんと承認欲求を満たし、適切なコミュニケーションをとってあげるということになる。安心できる環境と、秩序ある環境、要するに中で暴力が蔓延していたらまずい。そういう時に子どもの居場所がなくなる。子どもは暴力側に加担するしかなくなってしまう。

 そのための支援方法として以下のことなどを大切にしている。

  • 衣食住の保障。おかわり、隣同士の配慮、衛生面にも配慮して楽しい食事を。
  • 風呂は一人ずつ。
  • 一人一人の子どもの睡眠の様子をよく観察する。
  • 職員は遊び相手になったり一緒に活動したりすることを心掛ける。
  • 禁止より、こうやってほしいことを教える。(代替行動を教える)
  • 子どもの特質(発達障害など)をふまえて向き合う。例えばADHD児など高い確率で感覚過敏がある。音に過敏な子はエアコンの音、子どもの歓声にもイライラする。このようなADHDの子には一定時間静かな部屋を提供する。

これからの一時保護で大切なのは権利擁護である

(1)いま最も足りないのは教育を受ける権利の保障 

広域行政のために遠方から一時保護されることもあって学校に通えない。短期間という設定なので地元の学校にも通えない。
本は置いておくだけでよく読む。
権利という観点では教育のところが最も不十分。
学力は総じて2学年低い。学習に関して3重苦、家庭+保護所+施設

(2)意見表明権

1年前の新施設の意見箱の設置場所に問題あり。良くない事例。

(3)休息や遊びの文化的な環境不足

江戸川は図書費として4桁の冊数分予算が認められた。図鑑、美術館の美しい豪華な本など。

(4)江戸川区の施設の図面はモデルとしたい

パブリックと個人スペース 自由に行き来できるようにする。
パブリックと幼児エリアの隣接で、学齢児と幼児が交流できる場となる。

(5)最先端の研修・学校との連携

保護所内に小学校の分教室を設置したい。
地域の中で一時保護ができるようにしたい。里親への委託の他、区が直営で小規模分園の一時保護所ができるとよい。

質 疑

Q:保育者として通告に値する子どもに気付いたとき、最優先に考えるべきことは。

 子どもの安全が最優先。全ての国民には通告の義務がある。専門の職についている者は発見に努力する義務がある。質問の事例では本来は組織的に通告すべきである。責任者がそうしない場合は匿名で通告するか、自治体のパンフレットを園長に見せて説得する。

Q:主任児童員として保護所で絵本の読み聞かせを行っている。子ども向けの作品で家庭の温かみのある絵本を読んでよいのか。里心がついてしまうなど配慮が必要か。

 子どもはデリケートな反面タフである。そこを信頼して読めば気にしなくてもよい。親のあたたかい愛情を感じる絵本で構わない。

Q:練馬区区議会議員です。基礎自治体が児童相談所を持つことがどういう可能性を生むのか。

 子どもの育ちをサポートする点で、都道府県は施設等に「入れる」事しかできない。子育て支援サービスを利用するには市区町村と連携するしかないが、都道府県の児相は子育てサービスについての知識が不十分。市区町村がダイレクトに行うことでそのジレンマを解消できる。

Q:一時保護所と本のかかわりについて、子どもの本に関わる私たちはどんなことを心掛けながら本を届ける仕事をしていけばよいか。

 図書館が遠く子どもたちを連れていけない一時保護所も多い。子どもたちには美しい図鑑、美術書など子どもたちの家庭では買えないような本も見せてやりたい。そのためには一時保護所が地域社会に開かれ、読み聞かせなどを通じて子どもたちに届けることを提案するなど、そういう事もしてもらいたい。

報告:中島

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