JBBY希望プロジェクト・学びの会報告(2022/11/13)

「子ども・若者の「生きづらさ」~大人には見えない思春期のあれこれ」
 講師:金子由美子さん(NPOさいたまユースサポートネット)

 本年度3回目の学びの会では、NPO法人さいたまユースサポートネット副代表で、さいたま市若者自立支援ルーム南浦和所長でもある金子由美子さんをお迎えし、お話をうかがいました。金子さんは、40年ちかく養護教諭として中学生に寄り添い、現在はさいたま市若者自立支援ルームで、15歳から39歳までの若者への支援にかかわっていらっしゃいます。

 金子さんはライフワークとして、思春期の子どもたちの性の課題に取り組んでこられました。思春期とは、医学的には「二次性徴の始まりから、成長が終わるまで」と定義されます。中学生は思春期に重なり、自らのからだにおとずれる変化に不安を抱いたり、性への強い興味や拒絶をしめしたりする時期にあります。金子さんは、「自分らしさにこだわる思春期の子どもたちは、哲学的で面白い」と話します。一方で、子どもたちが自身の性に目覚めていく過程で、性にかかわる必要な情報などの支援を受けることができていないことにも言及し、それを「性教育のネグレクト」であると指摘なさいました。

 「学校ってほんとに一律なんだなと改めて感じました」と話しながら見せてくださった写真では、生徒が体育館に集まっていて、全員が同じ体操着に同じ運動靴で、おまけに同じような姿勢をしていて、そのまわりに教員が立っていました。この一律な学校教育から、おとなのもとめる「型」にはまれない、あるいは、学校で対応できない困難を抱えている子どもたちが排除されているという現状についても、事例とともにご紹介くださいました。最近では、経済的な困難や家族関係の課題がある子たちだけでなく、授業が物足りず疎外感を感じる高偏差値の子が「浮きこぼれ」とよばれて問題になっているそうです。そしてその背景には、親の過度な期待からいくつもの塾や習いごとに通わされ、十分に食べたり寝たりする時間がない子どもたちへの「教育虐待」もあるといいます。

 加えてコロナ禍では、子どもたちはますます声をあげにくくなっています。例えば、子どもの自殺や虐待の数が過去最多にのぼるなかで、自殺した子ども半数以上の理由が「不明」だそうです。また、子どもだけでなく親も孤立し、そのことが子どもたちの生活や学習、心身の発達に影響していることもわかりました。コロナ禍により不平等が悪化していることは、深刻に受け止めていかなければなりません。

 お話をうかがって、日本社会がいかに、子どもたちの声に耳を傾けることができていないのかを痛感しました。そしてそれは、子どもの人権が尊重されておらず、金子さんがおっしゃっていた、子どもはおとなの支配下にあると考える「アダルティズム」が、社会に定着してしまっているためかもしれません。子ども時代に受けた暴力の体験は、生涯にわたる苦しみとなる。このことを胸に刻み、学校が変わっていくだけでなく、金子さんがいらっしゃる自立支援ルームのように、地域で子どもたちを支える拠点が増え、そのネットワークが広がっていくことを願います。そして私自身も、子どもたちの状況にアンテナをはっていきたいと思いました。

報告:和田 直(翻訳者)

金子由美子(かねこ・ゆみこ)
一般社団法人“人間と性”教育研究協議会代表幹事、一般社団法人日本思春期学会理事、NPО法人チャイルドライン支援センター理事、子ども支援センターピッピ理事。
埼玉県内公立中学校養護教諭を務めた後、子ども・若者自立支援組織の理事を多数務める。NPО法人さいたまユースサポートネットには設立当初より理事として携わり、2016年より副代表、現在さいたま市若者自立支援ルーム南浦和所長。
『自立クライシス』(岩波書店)『保健室の恋バナ+@』(岩波ジュニア新書)など、思春期や性教育の著書多数、埼玉新聞、共同通信、信濃毎日新聞、読売新聞、『月刊生徒指導』『月刊教育相談』などの連載を経て、『季刊セクシュアリティ』副編集長、読売新聞「先生の相談室」連載中。

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