JBBY希望プロジェクト・学びの会報告(2021/2/11)

「震災から10年 被災地の子どもたちが教えてくれること」
 講師:菅野祐太さん(認定NPO法人カタリバ)

菅野祐太さん

 今年度、最後の学びの会は、前々からお願いしたいと思っていた認定NPO法人カタリバ(以後、カタリバ)の菅野祐太さんにお話いただきました。

 菅野さんは、カタリバが岩手県大槌町に開いた大槌臨学舎の立ち上げのときからずっとかかわってこられた方です。震災当時のことから、当時の課題、そして復興が進んでいく中での課題やとりくみ、そして今の課題など、資料をまじえて詳しく話してくださり、岩手県の大槌町での取り組みを知り、改めて大震災のことをふりかえる時間となりました。

 カタリバが、東日本大震災のあと、大槌町にコラボ・スクールを立ち上げるに至った経緯からお話は始まりました。小中学校の被災の状況、4月に体育館などで再開した学校のようす、大人たちが忙しく働くなか、避難所の外で勉強する子どもを見て、放課後の学習場所を作ろうと動き出したことなど。町からは、よその若者など、どうせすぐいなくなるのだろう、大槌の子どもはどうせ勉強にはこないと言われていたが、2010年12月の説明会では、中学3年だけが対象だったにもかかわらず、80名の保護者が参加したとのことでした。

 12月13日に開講したスクールには、結局、対象年齢の生徒の7、8割が通ってきました。子どもたちが落ち着いた環境で勉強できることを、保護者もとても喜んだそうです。そんな中、困難な状況にある子どもたちにとって学習が大きな力になることを実感したとのこと。どうしようもない自然災害に対して、やれば自分が変わり、まわりも変わっていくという経験を、学習が与えてくれる。コラボ・スクールは、今では、小中高すべての学習支援にあたっているそうです。

 その後、カタリバがとりくんだのは、高校生のマイプロジェクトでした。復興が進まないのは行政が悪いと言う高校生に、自分たちができることをしようと投げかけたそうです。ここで大事にしたのは、何かをやれではなく、自分で設定した課題を見つけること、頭で考えるだけではなく行動すること。そして、高校生の活動に地域住民も励まされていったとのこと。「復興木碑プロジェクト」など、具体例はどれも興味深いものでした。

 そして、2016年ごろからは、コラボ・スクールに来てくれる子どもだけではなく、大きな範囲で仕事をすべきと思うようになり、菅野さんはカタリバから大槌町教育委員会に出向し、町民みなでで徹底熟議を重ねて練り上げた、教育大綱づくりにかかわっていきます。平成30年には、みんなでつくる “教育の町「おおつち」” 宣言が、「学びがふるさとを育て、ふるさとが学びを育てる町おおつち」という理念に基づいて発表されたとのことです。

 しかし、大槌町は人口減少という深刻な問題をかかえています。岩手県には、入学者数が40人を切ると再編成を考える方針があるそうですが、大槌高校は、震災当時100名以上いた入学者が平成元年42人となっていて、そのままだと再編成の対象になりそうでした。高校がなくなるということは、その土地にとって人的に大きな損失がある。そこで、文部科学省の事業に応募して、大槌高校でカリキュラム開発と、地域と高校の協働事業にのりだしたとのこと。「はま研究会」「復興研究会」「三陸みらい探求」など、ユニークな授業を展開し、全員がマイプロジェクトにとりくむなどの事例を説明してくださいました。高校生も町の課題を考え、復興が学びの場になっていること、被災地のかわいそうな子たちとして生きるのではなく、地域のよさを感じ、主体的に前を向いている高校生のようすが、印象に残りました。

 これまでの10年でハード面の復興はできた、これからはそこに魂をふきこむことという言葉や、これまでは復興のためにがまんしてきた、これからは復興のために自分を表現するとき、という言葉に、10年という時の流れとこれからのことを考えさせられました。

 質疑応答では、多くの質問に、参加者の方の関心の高さが伺われました。臨学舎の教材や生徒の募集の仕方から、女川や全国のカタリバとの違い、また、支援を求めてこない子どもやプログラムにのってこられない子どもへのアプローチなど、どの質問にも丁寧に答えてくださいました。

 参加者は、スタッフを含めて約50名。終了後のアンケートには、「あの混乱の中で、居場所に行けた子供達、本当に良かった。ほっとする思いでした。」「HPだけでは伝わらない菅野さんの臨場感のあるお話や活動の紹介、活動されている方の声で聞けて良かったです」「教育の意味について、再確認させられました」「教育から復興を目指すカタリバの、しかも大槌町と菅野さんの実践が、人口減少に苦しむ地方の町の未来に向けての、素晴らしいモデルケースにもなっていくのではないかとワクワクしました」「主体性を重んじての復興、育っていく子どもたちが体現してくれていることが何より嬉しく、『若い力』の持つ可能性に元気をもらった時間でした」など、多くの声が寄せられました。

 「希望プロジェクト」では、困難をかかえる子どもたちによりそい、活動している方々とともに、子どもたちの未来を共に考えていけたらと思います。

報告:宇野和美

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