【2020年 「IBBYオナーリスト」日本の推薦作品決定】
2019年10月3日
JBBYは、10月1日に記者会見を行い、2020年の「IBBYオナーリスト」(IBBY Honour List 2020)に日本から推薦する作品を発表しました。
「IBBYオナーリスト」は、子どもの本を通しての国際理解を提唱するIBBY(国際児童図書評議会)が、1956年から隔年で発行している、世界的に権威のある児童書リストです。文学作品・イラストレーション作品・翻訳作品の3部門があり、IBBYに加盟する国と地域が、2年に一度、ほかの国でも読んでほしいすぐれた子どもの本を選び推薦します。IBBY日本支部であるJBBYも、毎回選考会を実施して、日本を代表する作品を推薦しています。
このリストは、世界中の翻訳出版関係者にとって、すぐれた児童書発掘のデータベースになります。また、ほかの国の子どもたちが成長の過程でどんな本を読んでいるかという情報は、国際理解・多文化理解を進めるうえで大変興味深い資料にもなります。
なお、JBBYは、IBBYオナーリストに選ばれた作家・画家・翻訳家・各出版社に「JBBY賞」をお贈りしています。
2020年「IBBYオナーリスト」日本の推薦作品
●文学作品部門
『きみの存在を意識する』梨屋アリエ 作、ポプラ社、2019
中学2年生の新学期、新しい担任教師は読書活動に熱心で、クラス全員に読んだ冊数を競わせる。それをきっかけに、同年代の少年少女たちが抱えるさまざまな困難が浮かび上がる。ひすいは、本を読むのが非常に困難で1冊をなかなか読み切れない。男女のどちらかに区分けされることを嫌う理幹(りき)は、読書記録はプライバシーだからと、カードを提出しない。書字障害で、答えが判っていても答案用紙に書けない心桜(こはる)。化学物質過敏症を理解してもらえない留美名。大人たちの期待に過剰に応えようとして過食気味の小春。両親の事故死で、ひすいの家庭の養子になった拓真(たくま)。それぞれ見えにくい困難を抱えた少年少女たちが葛藤する。終章、大人社会が強いる圧力にもめげずに「生き抜こう」というしたたかなメッセージが、同世代への極めて今日的な心強いエールとなる。
【梨屋アリエ】栃木県生まれ。神奈川県在住。中学生の頃から作家を目指し、同人誌を作ったり短編小説新人賞に応募したりする。大学卒業後、音楽教室で講師をしながら書き続け、1998年『でりばりぃAge』で講談社児童文学新人賞を受賞。その後、児童文学作家・YA作家として活躍。作品に『ピアニッシシモ』『ココロ屋』『空色の地図』『キズナキス』など。韓国や台湾でも翻訳されている。2011年の東北の震災支援のため2012年にアメリカで出版されたアンソロジー「Tomo: Friendship Through Fiction An Anthology of Japan Teen Stories」にも参加。創作活動のほか、社会福祉の資格を取ったり、若い人たちの読書会を主催したり、子どもや若者のウェルビーイングに努めている。
●イラストレーション作品部門
『よるのおと』たむらしげる 作、偕成社、2017
夏の夜、男の子が池のほとりを歩き、おじいちゃんの家に着くまでの数十秒間のドラマ。特別な事件は起きない。ただ足元で虫が鳴き、遠くから列車の汽笛が聞こえ、蓮の葉の上で蛙が歌い、その下を鯉が静かに横切る……豊かなオノマトペが画面に満ちており、それぞれの小さな命がクローズアップされる。生命が息づくページが五感に語りかけてくる。
蛙が池に飛び込むと、水面の波紋が銀河のように広がる。この本の構想のもととなったのは、作者が9歳のときに衝撃を受けた、松尾芭蕉の俳句「古池や 蛙飛びこむ 水の音」だった。構想から60年温めてきた、小さな日本的な宇宙が絵本に結実した。
通常の4色分解の印刷では出ない、深い澄んだブルーを表すために画家自身が版下を作り、4つの特色(サファイヤブルー、パープル、イエロー、ブラック)で印刷された絵本。一見シンプルなCGに見える画面は、各部分のニュアンスを追求するために、墨でにじみやぼかしを活かした絵を描き、それをコンピューターで取り込んで版を作っている。一場面につき何十枚もの絵を描くような、膨大な手作業が背景にある。
【たむらしげる】1949年東京生まれ。桑沢デザイン研究所修了。絵本作家、映像作家、デジタルコンテンツ作家。独特の詩情とユーモアのある世界をジャンルをこえて発表し、国内外の注目をあびる。絵本に『ありとすいか』『ゆき ゆき ゆき』「ロボットのランスロット」シリーズほか多数。映像作品『銀河の魚』『クジラの跳躍』などの評価も高く、ニューヨークのMOMAをはじめ、世界のフィルムフェスティバルにも招待されている。『よるのおと』は、産経児童出版文化賞大賞を受賞。2019年BIBにも出展されている。
●翻訳作品部門
『青い月の石』西村由美 訳、トンケ・ドラフト 原作、岩波書店、2018
伝承遊び唄から始まるオランダの冒険物語。祖母と暮らすいじめられっ子のヨーストは、青い月の石がほしくて、地下世界の王マホッヘルチェを追っていく。同行するのは、いじめっ子のヤンだ。途中、イアン王子と出会い、たどりついた地底の国でマホッヘルチェに難問をつきつけられるが、マホッヘルチェの末娘ヒヤシンタ姫が助けてくれる。ところがようやく地上に戻ると、イアン王子はタブーを侵したせいで、愛するヒヤシンタのことをすっかり忘れてしまっていた。そこでイアン王子の記憶を取り戻すため、今度は少女フリーチェも加わった次の冒険が始まる。昔話のモチーフを使い、現実とファンタジーの間に橋をかけた作品。原著者のストーリーテリングの妙味を生かした、すばらしい訳になっている。
【西村由美】東京外国語大学英米語学科卒業。1980年代にオランダに在住。帰国後、仕事や留学でオランダに行く人たちにオランダ語を教えながら、翻訳を始める。オランダで愛され、よく読まれている作品か、率直で飾らない自然体のオランダの人たちが描かれているか、自分自身が日本の子どもたちにぜひ読んでもらいたいと思うか、をモットーに、オランダのすぐれた作品を日本の子どもたちに紹介し続けている。訳書に、アニー・M. G. シュミット「イップとヤネケ」シリーズ、『ネコのミヌース』、トンケ・ドラフト『王への手紙』『七つのわかれ道の秘密』『白い盾の少年騎士』『踊る光』など多数。
*2020年IBBYオナーリスト選考委員
さくまゆみこ(翻訳家、編集者、JBBY会長)
代田知子(三芳町立図書館長、JBBY理事)
神保和子(株ヴィアックス 図書館事業部)
野上 暁(評論家、編集者、JBBY副会長)
土居安子(大阪国際児童文学振興財団総括専門員、JBBY理事)
広松由希子(絵本評論、作家、JBBY理事)
福本友美子(翻訳家)
*今後のスケジュール
2020年9月・・・第37回IBBY世界大会(ロシア)にて表彰式/「IBBY Honour List 2020」発行 ➡ IBBYロシア大会について(参加登録受付中)
2020年10月・・・「IBBY Honour List 2020」を世界に配信
2021年3月・・・ボローニャ・ブックフェア(イタリア)で展示紹介/日本語版リスト発行
2021年5月・・・日本国内で「世界の子どもの本展」巡回開始
2022年3月・・・「第7回JBBY賞」を贈賞(JBBY賞は2年に一度の賞です)