JBBY希望プロジェクト・学びの会報告(2023/10/27)

「バリア(障害)を超える子どもの本-IBBYバリアフリー児童図書について」 講師:攪上久子さん(公認心理師)

 バリアフリーについて、自分がいかに「知っているつもり、理解しているつもり」の独り合点でいたかを知り、目の覚めるような気持ちでお話に聞き入った90分間でした。―というのも、2011年12月に出会った攪上さんの「障害のある子どもたちは、その障害のために本を楽しむことができないのではなく、本側にバリアがあり本が楽しめない、つまり、本・読書への障害を持たされている子どもたちなのです。」(Bookbird Japan No. 7/2011 P.49)という言葉を手帳に写し、ずっと心に留めていたにもかかわらず、思慮不足なことばかり! と気づいたからなのです。

 攪上さんの広く温かい視野からの曖昧さのない情報に基づいた講話のなか、特に私の心に響いた言葉が二つありました。①「バリアフリーからユニバーサルへ、そしてユニバーサルが新たなバリアを生む可能性」。 ②「思春期にある知的障害者の選書において、その人の生きてきた年月を尊重することの必要性」です。

 ①については、ユニバーサル絵本を私自身も楽しみ、積極的に「誰もが楽しめる絵本」として、さまざまな機会に紹介もしてきました。時には「赤ちゃんの次の動きを促す」絵本として、子育支援の場でも健常児の保護者に手渡してきました。ところが、攪上さんの言葉を聞いて、その絵本は、本当に必要な人に届いているのか? 必要な人が楽しめているのか? そこにもっと可能性はないのか? 本来手渡す人を置き去りにしてはいないのか? いつの間にかユニバーサルの部分のみを「活用」していた自分を、恥ずかしく思いました。

 ②の言葉では、モヤモヤしていたことに、明確な輪郭を与えて頂きました。私の接した方は、知的障害者ではなく、母親の結婚に伴い他言語圏から来日した児童でした。出会った時は13歳で5年生に在籍し、専任の学習指導員が付き添っていました。彼女は「心と体がドキドキする本を読みたい。大人は絵本ばかり読ませる」と、思春期の不満を打ち明けてくれたのですが、私は彼女の周囲の大人を、説得することはできませんでした。あの時、攪上さんの仰るように「彼女の生きてきた年月を尊重する本を」と明確な言葉で伝えられたら、なにかを少し、変えることができたのではと、ホゾを噛む思いです。

 他にも私の手元のレジュメには、攪上さんのたくさんの言葉がメモされています。全部をお伝えできず残念ですが…。今回の講座では、バリアフリーに関する基本的な考え方に始まり、JBBYの取り組み、私たちが目指すべき方向と、守り続けるべきことを、整理された言葉で具体的に教えて頂きました。それらを基に、謙虚に、耳を、目を、そして心を傾け、アンテナを錆びつかせない努力を続けてゆきたいと思いました。

 お話しくださり、心から感謝申し上げます。

          報告:児玉ひろ美

*攪上さんがご紹介くださった『本は友だち』(偕成社)が下記で全文掲載されています➡ 障害保健福祉研究情報システムHP

  

攪上久子(かくあげ・ひさこ)
大学では、ひとりひとりの子どもの在り様をそのまま尊重する児童学を修めた。恩師の至高の教えは「泥棒になってもいいが、子どもの敵になるな!」。
卒業後、盲学校・養護学校の教員ののち、1998年からは公的機関での乳幼児期親子の心理臨床(公認心理師)。出会った1冊の絵本にひきずられてJBBYに。
2003年~「世界のバリアフリー絵本展・児童図書展」実行委員長。女子美術大学では学生とバリアフリー絵本制作をしている。バリアフリー絵本研究はライフワーク。
イラスト:佐々木卓也


*ほかの「学びの会」報告はこちら▶