12/11 JBBYオンラインセミナー#19「本来の『学び』とは何か~デジタル化が進む学校現場から子どもたちの未来を考える」久保敬さん

JBBY 希望プロジェクト・学びの会 2021-

本来の『学び』とは何か

デジタル化が進む学校現場から 子どもたちの未来を考える

今年5月、大阪市立木川南小学校の久保敬校長が「公教育はどうあるべきか真剣に考える時が来ている」という文章から始まる提言書(下記に全文紹介)を提出しました。この提言は、SNSで全国に広がり、久保校長は8月に市教育委員会から文書訓告を受けました。

今回は、久保敬校長を講師にお招きし、松井一郎市長宛てに実名で提言を出そうと考えたきっかけや、コロナを追い風に急速にデジタル化が押し進められている学校現場や子どもたちの様子を伺います。
誰のための公教育なのか。子どもにとって一番しあわせな学びの場とはどうあるべきなのか。
全員がタブレットで授業を受けるギガスクール構想を背景に、子どもの本の世界でも電子書籍化が広がっています。

  1. 本来の「学び」とは何か
  2. 学校がグローバル経済を支える人材育成装置化しているのではないか
  3. デジタル書籍や教科書は子どもの想像力や創造性を奪わないか
  4. そうさせないためには何が必要なのか

皆さんと一緒に、一度じっくりと考えてみたいと思います。

日時2021年12月11日(土)14:00~16:00(開場15分前)
場所オンライン(Zoom)
講師久保 敬さん(大阪市立木川南小学校長)
参加費一般 1300円
JBBY個人正会員/法人会員 1,000円(会員割引コードがあります。このサイトの会員ページにも記載しています。ご不明な方は事務局にお尋ねください。)
申込方法PEATIX(外部サイト)からお申し込みください。
オンライン視聴に関する注意事項・当日は、インターネット環境の安定した場所で、ご自身のパソコン、スマートフォン、タブレットよりご参加ください。
・配信は「Zoom」を使用します。下記URLより、パソコン、スマホ等でアプリを入手してください。https://zoom.us/download
・Zoomの設定については、ZoomのFAQページなどをご参照ください。Zoomがご利用になれるかどうが事前にテストも可能です。➡Zoom公式サイトミーティングテストに参加
・すでにZoomのアプリをご利用の方も最新版にアップデートしておくことをお勧めします(月に数回アップデートされます)。
・お申し込み後、開催前日に、お申し込みいただいた(peatixに登録した)メールアドレスにリマインドメールが送られます。メール内の「イベント視聴ページに移動」ボタンからご視聴ください。視聴にはPeatixへのログインが必要です。登録したメールアドレスとパスワードを忘れないようお書き留めください。
・携帯電話での受信設定をしている方は、「@peatix.com」「@jbby.org」からのメールが受信できるよう設定してください。
・取得したリンクなどを第三者と共有したり、転用したりしないようご留意願います。
・参加者の録音・録画・撮影は禁止です。

ちらしPDFはこちら▶

講師紹介

久保 敬(くぼ・たかし)

大阪市立木川南小学校校長。
本年5月、競争主義、能力主義にまどわされない、子どもがのびのびと学べる学校をとり戻すべく、実名で大阪市長へ提言書を提出。そこで言及した学校の本来あるべき姿と勇気ある行動に、全国が共感した。

大阪市長 松井一郎 様
大阪市教育行政への提言
「豊かな学校文化を取り戻し、学び合う学校にするために」


 子どもたちが豊かな未来を幸せに生きていくために、公教育はどうあるべきか真剣に考える時が来ている。
 学校は、グローバル経済を支える人材という「商品」を作り出す工場と化している。そこでは、子どもたちは、テストの点によって選別される「競争」に晒(さら)される。そして、教職員は、子どもの成長にかかわる教育の本質に根ざした働きができず、喜びのない何のためかわからないような仕事に追われ、疲弊していく。さらには、やりがいや使命感を奪われ、働くことへの意欲さえ失いつつある。
 今、価値の転換を図らなければ、教育の世界に未来はないのではないかとの思いが胸をよぎる。持続可能な学校にするために、本当に大切なことだけを行う必要がある。特別な事業は要らない。学校の規模や状況に応じて均等に予算と人を分配すればよい。特別なことをやめれば、評価のための評価や、効果検証のための報告書やアンケートも必要なくなるはずだ。全国学力・学習状況調査も学力経年調査もその結果を分析した膨大な資料も要らない。それぞれの子どもたちが自ら「学び」に向かうためにどのような支援をすればいいかは、毎日、一緒に学習していればわかる話である。
 現在の「運営に関する計画」も、学校協議会も手続き的なことに時間と労力がかかるばかりで、学校教育をよりよくしていくために、大きな効果をもたらすものではない。地域や保護者と共に教育を進めていくもっとよりよい形があるはずだ。目標管理シートによる人事評価制度も、教職員のやる気を喚起し、教育を活性化するものとしては機能していない。
 また、コロナ禍により前倒しになったGIGAスクール構想に伴う一人一台端末の配備についても、通信環境の整備等十分に練られることないまま場当たり的な計画で進められており、学校現場では今後の進展に危惧していた。3回目の緊急事態宣言発出に伴って、大阪市長が全小中学校でオンライン授業を行うとしたことを発端に、そのお粗末な状況が露呈したわけだが、その結果、学校現場は混乱を極め、何より保護者や児童生徒に大きな負担がかかっている。結局、子どもの安全・安心も学ぶ権利もどちらも保障されない状況をつくり出していることに、胸をかきむしられる思いである。
 つまり、本当に子どもの幸せな成長を願って、子どもの人権を尊重し「最善の利益」を考えた社会ではないことが、コロナ禍になってはっきりと可視化されてきたと言えるのではないだろうか。社会の課題のしわ寄せが、どんどん子どもや学校に襲いかかっている。虐待も不登校もいじめも増えるばかりである。10代の自殺も増えており、コロナ禍の現在、中高生の女子の自殺は急増している。これほどまでに、子どもたちを生き辛(づら)くさせているものは、何であるのか。私たち大人は、そのことに真剣に向き合わなければならない。グローバル化により激変する予測困難な社会を生き抜く力をつけなければならないと言うが、そんな社会自体が間違っているのではないのか。過度な競争を強いて、競争に打ち勝った者だけが「がんばった人間」として評価される、そんな理不尽な社会であっていいのか。誰もが幸せに生きる権利を持っており、社会は自由で公正・公平でなければならないはずだ。
 「生き抜く」世の中ではなく、「生き合う」世の中でなくてはならない。そうでなければ、このコロナ禍にも、地球温暖化にも対応することができないにちがいない。世界の人々が連帯して、この地球規模の危機を乗り越えるために必要な力は、学力経年調査の平均点を1点あげることとは無関係である。全市共通目標が、いかに虚(むな)しく、わたしたちの教育への情熱を萎(な)えさせるものか、想像していただきたい。
 子どもたちと一緒に学んだり、遊んだりする時間を楽しみたい。子どもたちに直接かかわる仕事がしたいのだ。子どもたちに働きかけた結果は、数値による効果検証などではなく、子どもの反応として、直接肌で感じたいのだ。1点・2点を追い求めるのではなく、子どもたちの5年先、10年先を見据えて、今という時間を共に過ごしたいのだ。テストの点数というエビデンスはそれほど正しいものなのか。
 あらゆるものを数値化して評価することで、人と人との信頼や信用をズタズタにし、温かなつながりを奪っただけではないのか。
 間違いなく、教職員、学校は疲弊しているし、教育の質は低下している。誰もそんなことを望んではいないはずだ。誰もが一生懸命働き、人の役に立って、幸せな人生を送りたいと願っている。その当たり前の願いを育み、自己実現できるよう支援していくのが学校でなければならない。
 「競争」ではなく「協働」の社会でなければ、持続可能な社会にはならない。
 コロナ禍の今、本当に子どもたちの安心・安全と学びをどのように保障していくかは、難しい問題である。オンライン学習などICT機器を使った学習も教育の手段としては有効なものであるだろう。しかし、それが子どもの「いのち」(人権)に光が当たっていなければ、結局は子どもたちをさらに追い詰め、苦しめることになるのではないだろうか。今回のオンライン授業に関する現場の混乱は、大人の都合による勝手な判断によるものである。
 根本的な教育の在り方、いや政治や社会の在り方を見直し、子どもたちの未来に明るい光を見出したいと切に願うものである。これは、子どもの問題ではなく、まさしく大人の問題であり、政治的権力を持つ立場にある人にはその大きな責任が課せられているのではないだろうか。

令和3(2021)年5月17日
大阪市立木川南小学校
校長 久保 敬