JBBY翻訳フォーラム・報告(2022/01/22)

1月22日、子どもの本の翻訳フォーラムがオンラインで開催されました。パネリストに宇野和美さん(スペイン語翻訳家)、佐藤まどかさん(児童文学作家)、那須田淳さん(児童文学作家)を迎え、英語翻訳家でJBBY会長のさくまゆみこさんがコーディネーターを務めました。佐藤さんはイタリアから、那須田さんはドイツからのご登壇です。参加者も、広く国内外から300人近い申し込みがありました。

 イントロダクションとして、さくまゆみこさんから今回のテーマについてのお話があり、「世間か世界か」(日本の創作は「世間」に目を向け、海外作品は「世界」に目を向けている)というキーワードが出されました。ほかにも、他者との違いや多様性のとらえかた、描きかたに、日本と海外では違いがあるとの指摘がありました。

 パネリストとしてご登壇予定だった英語翻訳家のこだまともこさんは、体調不良により欠席されましたが、メッセージをお寄せくださり、作品の「当事者性」を軸に、象徴的な4つの作品を挙げられました。

 まだまだ日本での刊行が少ないスペイン語圏の作品を翻訳されている宇野和美さんからは、視点の違いは社会の違いであり、海外作品が訳されないことで日本の子どもが「違う社会」に触れる機会が失われるのは残念だというお話がありました。マイノリティや多様性を描いてきた佐藤まどかさんからは、日本とイタリアの子どもをとりまく状況について、興味深い比較をいくつも具体的にうかがえました。那須田淳さんはドイツと日本の違いを語られ、ドイツ人は常に「歴史」と「環境」を意識しており、その中で育つ子どもたちは早くから社会的な問題に真剣に向き合っているというお話には考えさせられました。

 パネリストそれぞれの立場から「視野の違い」について語っていただいたあとは、日本の児童文学界について、さらに広く活発に意見が交換されましたが、子どもたちには多様な世界に触れてほしい、そのためには創作も翻訳も多様な文学作品があって、そこから「選べる」ということがだいじだというのは、全員に共通する思いでした。でも、現在の日本の出版界にはそれに逆行するような傾向も感じられます。子どもの本の作り手として、本を手渡す立場として、どのような意識をもたねばならないかという大きなテーマが投げかけられた、密度の濃い2時間半でした。

報告:杉本詠美