IBBYオナーリスト、2018年の日本の作品決定

子どもの本を通して国際理解を推進するIBBY(国際児童図書評議会)の最もIBBYらしい活動のひとつが、隔年で実施する「IBBYオナーリスト」です。これは、2年に一度、加盟各支部から外国に紹介したい児童書を集め、リストにまとめて発信するものです。
1956年の1回目は、12カ国から15作品が集まりました。2016年は、(1)文学作品(2)イラストレーション作品(3)翻訳作品の3つのカテゴリーに、57カ国173作品が揃いました。言語は、新たにアルメニア語、フェロー語、グリーンランド語、ソト語が加わって48言語になりました。半世紀以上継続している活動は、各国支部、とりわけあまり知られていない言語の支部にとって、自国の児童文学を世界に紹介する貴重な機会になっています。
選ばれた本は、IBBY世界大会・IBBY地域大会をはじめ、ボローニャやフランクフルト等世界各地のブックフェア会場、支部有志による企画展などで展示紹介されます。IBBYが発行するオリジナルの英文ブックリストは、日本語を含むさまざまな言語で翻訳され、多くの人たちのもとに届くようになりました。

IBBYは現在2018年のセレクションを進めています。JBBYも、国内選考会を実施して、2018年IBBYオナーリストに掲げる、日本の3作品を選びました。なお、IBBYオナーリストに選出された3作品には、第6回JBBY賞が贈られます。

● 選考委員: さくまゆみこ氏・代田知子氏・土居安子氏・野上暁氏・広松由希子氏

【1】文学作品部門

『フラダン』
古内一絵・作/小峰書店/2016年

○本について
高校2年生の穣は、水泳部を辞めた途端、強引に女子ばかりのフラダンス愛好会に引き込まれる。そこには、シンガポール帰りの超イケメン、やせぎすのモヤシ男子、おじさんにしか見えない下級生など、個性的なチームメイトが、男女混合でフラガールズ甲子園へ出場するために集められていた。笑いに溢れる高校生活が描かれる一方、大会をめざす日々のなかで、徐々に、3.11東日本大震災と原発事故から5年後の福島が抱えるそれぞれの家庭の事情、人に言えなかった心情が表出してくる。

○作者について
古内一絵(ふるうちかずえ):1966年東京生まれ。大学で映画を学び大手映画会社に勤務。2009年に退職し、中国語翻訳家として活躍しながら、大人向け、YA向けの創作を開始。2010年に第5回ポプラ社小説大賞特別賞を受賞し、2011年『快晴フライング』(ポプラ社)でデビュー。その他の作品に、『十六夜荘ノート』(ポプラ社)『風の向こうへ駆け抜けろ』『痛みの道標』(小学館)などがある。

【2】イラストレーション作品部門

『ドームがたり』
アーサー・ビナード作 スズキ・コージ画/玉川大学出版部/2017年

○本について
広島の原爆ドームを主人公にした絵本。「広島平和記念碑」として世界遺産に登録される原爆ドームは、もともとは1915年に広島県物産陳列館として建設された。被爆前の町の賑いから、1945年8月6日の原爆投下、破壊と連鎖反応、そしてその後の復興が、ドームの視点で描かれる。今、ドームは何を思うのか。アメリカ出身の詩人アーサー・ビナードとスズキコージが、原爆の資料を読み込み、被爆者から体験談を聞くなど制作に2年を費やした渾身の絵本。飛び散った目に見えないウランのかけらを象徴的に描き込んだ場面展開が印象的。

○画家について
スズキコージ:1948年静岡県生まれ。絵本、画集、漫画、映画や演劇のポスター、舞台装置や衣装、看板、パッケージデザイン、壁画など、多方面に才能を発揮する。絵本作品は、『エンソくん きしゃにのる』(福音館書店)『やまのディスコ』(架空社)『サルビルサ』(ほるぷ出版/架空社)『ブラッキンダー』(イーストプレス)など多数。国内外の受賞も多く、『やまのディスコ』は、1990 年にもIBBYオナーリストに選ばれた。

【3】翻訳作品部門

『お静かに、父が昼寝しております――ユダヤの民話』
母袋夏生・編訳/岩波書店/2015年

○本について
世界中で語り継がれてきたユダヤの面白い話38編を収めたアンソロジー。訳者が長い年月をかけて、ヘブライ語で刊行された書籍の中から集め、翻訳した。巻末には原典一覧が付してある。表題作の「お静かに、父が昼寝しております」をはじめ、いずれもとんちやユーモアがきいた、ユダヤの生活や習慣がわかる話ばかり。訳者の、この本を通して読者にあたらしい窓が開かれることを願う気持ちがこもっている。

○訳者について
母袋夏生(もたいなつう):1943年長野県生まれ。小学校教諭を経て1970年にイスラエルに渡る。キブツに滞在したのち、ヘブライ大学文学部修士課程を修了。帰国後、出版社に勤務しヘブライ語の翻訳者になる。国際アンデルセン賞受賞作家ウーリー・オルレブの作品をはじめ、日本ではなかなか読むことの出来ないヘブライ文学を日本の読者に届け続けている。1998年ヘブライ文学翻訳奨励賞、2017年翻訳功労賞を受賞。主な訳書に、オルレブ『壁のむこうから来た男』『走れ、走って逃げろ』(岩波書店)『砂のゲーム――ぼくと弟のホロコースト』(岩崎書店)、タミ・シェム=トヴ『父さんの手紙はぜんぶおぼえた』(岩波書店)などがある。


各国のオナーリストは、2018年3月に発表され、ボローニャブックフェア会場内IBBYのスタンドでお披露目されます。

JBBYは、2019年春から、巡回図書展「世界の子どもの本展」で、全作品をご紹介する予定です。お楽しみに。

※これまでの日本のオナーリスト