JBBY希望プロジェクト・学びの会報告(2023/11/28)

「いじめってなんだろう? どうして起こる? どうしたらなくなる?」 講師:須永祐慈さん(「ストップいじめ!ナビ」副代表)

 本年度2回目の学びの会は、まず講師である須永さんの体験から始まった。小学校4年生のときに東京から福島に転校。翌年、クラスはもちあがりだったけれど担任の教諭が変わったことで、クラスの雰囲気が一変する。高圧的な担任のもと、息苦しさから須永さんにちょっかいを出す子が現れる。それに笑って応じているうちに、ふざけていると思われて担任から目をつけられ、集中的になじられたり攻撃されたりした。そのうちに、からかいや手出しがエスカレートし、誰も止めてくれる人がいないなかで心が折れて、学校に行くことができなくなった……。

 はじまりはほんのささいなことであったことがよくわかる。

 そして、そこに介在したおとなの罪が重いということも。

 「やる」側の子どもたちの罪の意識は低い。誰かおとなが、「それはいじめだから、やっていはいけない」とブレーキをかければ解決するはずのことだった。ところが、須永さんの場合、担任自身がそもそものきっかけになっていた。

 ほかの多くのケースでも、教師や保護者の無理解や無関心が問題解決を遅らせる、あるいは状況を一層ひどくしている。孤立無援と感じた子どもが、自死に向かうようになってしまうのだろう。 

 けれども、取り返しのつかないことになる前に、子どもは無意識に多くのサインを出している。夜眠れず睡眠不足になり朝起きられない、食欲がなくなる、からだがだるく元気がなくなる、動悸がする…そのような知識をおとなと子どもが共有していれば、何かあったときに周囲か自分自身が手を打てるかもしれない。ところが、現実にはそれができる関係が非常に希薄な場合が多い。

 須永さんの場合は、ご両親が力になってくれたために自死には至らずに済んだ。けれども、不登校はその後も続き、結局小学校4年生以降、いちども学校というものに通わないままとなる。まさにいじめによって人生が変わってしまったのだ。

 その後、フリースクールを経て、さまざまな活動を行うようになり、現在に至っている。須永さんご自身は、いじめにあわない人生のほうがよかったと思っていることだろう。けれども、須永さんの活動によって多くの子どもたちが助けられていることも事実だ。

 さらに、30年くらい前と比べていじめに関する研究が進んでいたり、法整備がなされたりしているとのこと。世の中は少しずつよくなってはいるのだろう。 

 けれども、これからどんなによくなるとしても、今現実に苦しんでいる子どもが救われるわけではない。今いじめにあっている子には今すぐ手をさしのべることが必要だ。須永さんのお話を聞きながら、いじめは子どもたち同士では解決できないことだということをおとなが認識しなければならないのだ、と痛感した。おとなが責任を逃れようとしたり、いじめられている子にも非があると考えたりすれば、子どもたちはそれを敏感に感じ取り、「いじめてもいいんだ」と考えてしまう。

 講演のなかで特に心に残ったのは、「どんな小さなことでもいじめととらえ、真剣に向き合うことが大切」という須永さんのことばだ。それから、「法律に守ってもらうことより、法律を使っていくことを考えよう」という提言も印象的だった。私たちは、子どもたちの問題を考えるときに、つい「法律なんて役に立たない」と考えがちだが、正しく使えば大きな力になるのだと気づかされた。

 たいせつなことは、子どもたちをいじめと戦わせることではなく、私たちおとながきちんと向き合い、努力していくことなのだ、ということを学んだ。子どものいじめの当事者はおとなであることを突きつけられた1時間半だった。

報告:小松原宏子(作家/家庭文庫)

  

須永祐慈(すなが・ゆうじ)
1979年東京生まれ。小学4年生の時、いじめと不登校を経験し、10代はフリースクールで育つ。 NPOが設立したオルタナティブな大学で、不登校やフリースクール研究等を行なった後、編集者を経て「ストップいじめ!ナビ」副代表に。子どもの自殺や校則問題、不登校など、教育問題の情報発信を精力的に行う。
NPO法人ストップいじめ!ナビ副代表、東京子ども図書館評議員。2018/19年度大津市いじめ防止行動計画懇談会委員・大津市LINEを利用した相談検証会議委員。


*ほかの「学びの会」報告はこちら▶