【2024年「IBBYオナーリスト」日本の作品決定】
2023年12月1日
〇文学作品
安東みきえ『夜叉神川』講談社
〇イラストレーション作品
たじまゆきひこ『なきむしせいとく 沖縄戦にまきこまれた少年の物語』童心社
〇翻訳作品
宇野和美『見知らぬ友』マルセロ・ビルマヘール作、福音館書店
JBBYのおすすめ本選書チームは、2024年の「IBBYオナーリスト(IBBY Honour List 2024)」日本の作品を選定しました。
「IBBYオナーリスト」は、子どもの本を通しての国際理解を提唱するIBBY(国際児童図書評議会)が、1956年から隔年で発行している、世界的に権威のある児童書リストです。文学作品・イラストレーション作品・翻訳作品の3部門があり、IBBYに加盟する国と地域が、2年に一度、ほかの国でも読んでほしいすぐれた子どもの本を選定します。IBBYの日本支部であるJBBYも、子どもの本の専門家から構成する選考委員会が毎年検討を重ね、日本を代表する作品を選びます。
このリストは、世界中の翻訳出版関係者にとって、すぐれた児童書発掘のデータベースになります。また、ほかの国の子どもたちが成長の過程でどんな本を読んでいるかという情報は、国際理解・多文化理解を進めるうえで大変興味深い資料にもなります。
なお、JBBYは、IBBYオナーリストに選ばれた作家・画家・翻訳家・各出版社に「JBBY賞」をお贈りしています。
2024年「IBBYオナーリスト」日本の作品
●文学作品●
『夜叉神川』安東みきえ作、講談社、2021
「夜叉神」は人を食う鬼神ともいわれ、人の心に潜む鬼のような気持ちを象徴している。川の流域を舞台に描いた5話の短編集で、物語は川の上流から下流へと紡がれていく。「青い金魚鉢」では、学校に通えなくなった小学6年生の少女が、自分の部屋にある古い金魚鉢に、意地悪した子の魂を閉じ込める。「スノードロップ」は、連れ合いに先立たれた隣の偏屈なおじいさんが、川の散歩道のベンチで自死しようとしているのを少年と犬が止める。誰の心にも芽生える邪悪な気持ちと優しさをていねいにくみとり、ちょっと怖くて不思議な物語に仕上げた文章が秀逸。
【安東みきえ】1953年山梨県生まれ。1994年、毎日新聞社主催の小さな童話大賞で、大賞と選者賞今江祥智賞を受賞。『天のシーソー』(理論社 2000)で椋鳩十児童文学賞、『満月の娘たち』(講談社 2017)で野間児童文芸賞を受賞。他に『頭のうちどころが悪かった熊の話』(理論社 2007)『夕暮れのマグノリア』(講談社 2007)『呼んでみただけ』(新潮社 2010)『メンドリと赤い手袋』(KADOKAWA 2021)『へそまがりの魔女』(アリス館 2023)などがある。
●イラストレーション作品●
『なきむしせいとく 沖縄戦にまきこまれた少年の物語』たじまゆきひこ作、童心社、2022
1945年、沖縄で8歳の少年せいとくは、いつも泣いてばかりなので「なちぶー」と呼ばれていた。父と兄は戦地に赴き、せいとくは母と妹の3人で南方へ逃げるが、母は米軍の砲弾で亡くなり、妹ともはぐれてしまう。死体の上を逃げ回り、味方と壕を奪い合う凄惨な沖縄戦の後、泣きむしだったせいとくは、涙すら流せなくなった。長年の取材の集大成として、真正面から「沖縄戦」を描いた絵本。2023年度講談社絵本賞を受賞。
【たじまゆきひこ】1940年大阪府生まれ。幼少期を高知県で過ごす。京都市立美術大学工芸科染色図案科卒業、大学院で本格的に型染を学ぶ。1975年、京都洋画版画新人賞受賞。1977年、初めての絵本『祇園祭』(童心社)がブラチスラバ世界絵本原画展(BIB)で金牌受賞。『じごくのそうべえ』(童心社 1979)で第1回絵本にっぽん賞。『てんにのぼったなまず』(福音館書店 2006)で2度目のBIB金牌。『ふしぎなともだち』(くもん出版 2014)で日本絵本賞大賞。ほかに『いもさいばん』(講談社 2016)『やんばるの少年』(童心社 2019)『せきれい丸』(くもん出版 2020)など。
●翻訳作品●
『見知らぬ友』宇野和美訳、マルセロ・ビルマヘール作、福音館書店、2021
ブエノスアイレスを舞台にした10 作の短編集。表題作は、人生のなかで窮地に陥ったとき、壮年期までに3度助けてくれる者が現れるが、それ以降現れず、主人公は70 歳のいじけた年寄りになる。そして再び見知らぬ友が現れるという物語。少年と床屋さんの強さについての会話がユニークな「世界一強い男」、鑑賞魚を媒介に少年が少女と出会う「ヴェネツィア」のほか、戦争、恋愛やサッカー、旅などの話が入っている。個性的な登場人物が魅力的で、意外な結末が人間関係のありようや人生を考えさせる。
【宇野和美】1960年大阪府生まれ。東京外国語大学スペイン語学科卒業。バルセロナ自治大学大学院修士課程修了。出版社勤務を経て翻訳家になる。小説や児童文学の翻訳のほか、スペイン語の子どもの本専門ネット書店「ミランフ洋書店」を経営し、スペイン語の魅力を伝えている。訳書に『フォスターさんの郵便配達』(エリアセル・カンシーノ作 偕成社 2010)『ちゃっちゃいさん』(イソール作 講談社 2016)『太陽と月の大地』(コンチャ・ロペス=ナルバエス作 福音館書店 2017)『マルコとパパ』(グスティ作 偕成社 2018)『おにいちゃんとぼく』(ローレンス・シメル文 フアン・カミーロ絵 光村教育図書 2019)など。
2024年IBBYオナーリスト選考委員
奥山恵(評論家、児童書専門店)
さくまゆみこ(翻訳家、編集者)
坂口美佳子(科学読物研究会)
笹岡智子(図書館員)
汐﨑順子(研究者)
代田知子(元三芳町立図書館長)
神保和子(家庭文庫)
土居安子(大阪国際児童文学振興財団総括専門員)
野上暁(評論家、編集者)
広松由希子(絵本評論、作家)
福本友美子(翻訳家)
本田まゆみ(図書館員)